口に含んだ物を噛む為に必要なあご周りの筋肉は、実は沢山あり、「閉口筋」と総称されます。非常に強力な筋肉ではありますが、使わなければその機能は当然衰えてしまいます。筋肉の衰えというのは早いもので、例えば脚の骨折ならば、2~3か月のギプス着用であっという間に脚の筋肉が衰えて行ってしまうのです。これを「廃用性萎縮」と言います。この廃用性萎縮歯、歯科でも同様の事が言えます。日々食事は摂るもの。その故に気づきにくいのですが、実は顎周りの筋肉の衰えというのは激しいのです。これが進行していくと、歯の数は減少・残った歯はグラグラ・硬いものが噛めない・必然的に柔らかい物しか食べられなくなる・更に筋力が衰えていくというまさに負の連鎖です。例えば脳卒中では、寝ていた人が起き上がる為には廃用性萎縮の克服が必要だといえます。同様に、総入歯を着用しても、筋肉を取り戻さないと噛む事が出来ません。つまり、歯にもリハビリが必要なのです。しかしながら、患者さんは「入歯があれば何でも噛める!これで好きな物を思う存分食べられる!」と期待を抱いてしまうものです。入歯を入れたその日から何でも食べられると考えるのが一般的だと言えるでしょう。しかし実際には、歯が弱っていた為に、伴って筋力も神経も衰えてしまっている状態です。極論を言えば、噛み方すら忘れてしまっていると言ってよいでしょう。義歯が口になじんでいない状態ですので、ここで無茶をすると歯茎を傷つけてしまう事になります。ですので、慣れるにはどうしても時間がかかるのです。入歯で噛む能力(咀嚼能率)は入れてから2か月半上昇し続けるという研究結果もあります。総入歯にして数日間は義歯を口の中に入れておくだけでも大変で違和感もあるかもしれません。ですので、徐々に慣らしてゆき、その間に悪い噛み癖を正しいくというのが良いでしょう。患者さん歯科医、それぞれでは成立しない治療になりますし、根気も必要です。